静乃と新治 第三部 ～大統領府へ
次の日の朝。
静乃は大統領府の正門前にいた。
事前連絡を受けていた警備員が最敬礼で出迎える。
ここに来る前に静乃は昨日演説会場でスピーカーを持って叫んだ女がステイ大統領に面会したいと伝えていた。
敷地内を歩き、正面玄関まで来ると、護衛を務めている屈強な男二人に付き添われた。
ボディチェックを受け応接室へと案内される。
しばらく待つと執務官を伴ったステイ大統領が入って来る。
やあ！救いの女神だ！
応接室に入るなり大統領が両手を挙げて叫ぶ。
君がいなければ命は無かったよ。
大統領は静乃の手を取りオーバーアクション気味で握手をした。
静乃と新治をソファーにエスコートし、自分も対面に座る。
で？
君はどこの誰だね？
口元は微笑みを絶やさないが、眼光は鋭く静乃を値踏みしている。
側近の中には君が爆破犯の仲間じゃないかと言う者もいる。
私は三浦静乃と申します。
石橋家でメイドをしております。
石橋家？
あのミスター石橋のことかね？
はい。
大統領も良くご存じの石橋龍之介ですわ。
静乃は大統領府の正門前にいた。
事前連絡を受けていた警備員が最敬礼で出迎える。
ここに来る前に静乃は昨日演説会場でスピーカーを持って叫んだ女がステイ大統領に面会したいと伝えていた。
敷地内を歩き、正面玄関まで来ると、護衛を務めている屈強な男二人に付き添われた。
ボディチェックを受け応接室へと案内される。
しばらく待つと執務官を伴ったステイ大統領が入って来る。
やあ！救いの女神だ！
応接室に入るなり大統領が両手を挙げて叫ぶ。
君がいなければ命は無かったよ。
大統領は静乃の手を取りオーバーアクション気味で握手をした。
静乃と新治をソファーにエスコートし、自分も対面に座る。
で？
君はどこの誰だね？
口元は微笑みを絶やさないが、眼光は鋭く静乃を値踏みしている。
側近の中には君が爆破犯の仲間じゃないかと言う者もいる。
私は三浦静乃と申します。
石橋家でメイドをしております。
石橋家？
あのミスター石橋のことかね？
はい。
大統領も良くご存じの石橋龍之介ですわ。
そうか！あの常人ならざる動きは石橋家の者だったからか！
いや疑ったりして悪かった！
ミスター石橋には日本政府を通じて多額の経済援助もして貰っている。
ミスター石橋の関係者なら言ってくれればＶＩＰ扱いで迎えたよ！
いえ、今回は個人的な旅行でしたので…
それより大統領、石橋の伝言を伝えに本日は参りました。
静乃は静かに、だが毅然とした態度で話を続ける。
ほう？伝言とは？
石橋家は内政干渉する気は全くありませんが、今回の爆破事件は
国民の不満がそれほどまでに高いことを示しています。
アウンサン・スーチー女史をはじめ、敬虔な仏教徒の国のミャンマーで
武力闘争をしようなんてよっぽどのことですわ。
どこの国にもイカレたヤツはいる。
今回もほんの一部の過激思想の輩だろう。
犯人も徐々に特定されて来た。
どうやら僧侶の中に君と同じ日本人と名乗る男が紛れていたらしいな。
その男が国外に逃亡しないように空港、港、国境の道路警備員に監視カメラの映像を渡したところだよ。
ミャンマー国軍を舐めるとどういうことになるか思い知らせてやる！
大統領。
大統領こそ石橋の情報網を舐めないで頂きたいですわ。
大統領が自国民にして来た仕打ちは全てお見通しですよ。
石橋の要望としては只一つ。
クーデターを起こした当初の志を忘れないで、自国民が何を望んでいるのか、真摯に耳を傾けて下さい。
反乱者を粛清すること自体は石橋も否定しませんが、オーバーキルは憎しみしか生みません。
神の逆鱗に触れる前に…
神の逆鱗に触れたら、地球上のどこにいても抹殺されてしまいますからね。
…「プーシキノの粛清」のようにかね？
それは脅しということか？
…どう捉えるかは大統領次第ですわ。
それと、これは私からの個人的なお願いですが、
大統領が疑われている容疑者は、本日私たちが日本に連行します。
なので手配は解除願います。
「ダメだ！」…と言ったら？
うふふ、聡明であらせられる大統領が「ダメ」と言うわけありませんわ。
静乃はいつもの屈託の無い笑顔でそう答えた。
…わかった、爆破犯は海外へ逃亡、次に見つけ次第逮捕で良いかね？
お気遣い痛み入ります。
静乃は深々と頭を下げた。
では私はこれで。
静乃はそう言い席を立った。
静乃が応接室から出て行くと、すかさず執務官がステイ大統領に駆け寄る。
行かせてしまってよろしいのですか？
ああ、構わん。
厄難はとっとと出て行って貰わんとな。
「プーシキノの粛清」の実行部隊は石橋直下の女兵士だったと聞く。
たった３０人足らずで１０００人ものマフィアを皆殺しにしたそうだ。
おそらくヤツはその中の一人だ。
なぜ分かるのです？
貴様は感じなかったかも知れんが、あの女が発する殺気は尋常なものじゃなかったぞ。
ヘタに取り押さえようとしたら私は勿論、お前を含めてこの場にいた全員の命はなかっただろう。
殺気を察知出来ない者は、権力の座に長くはいれないものだ。
…勉強になります。
執務官はそう言うと、改めて静乃が出て行ったドアを見返した。
「初心に返れ」…か。
権力の座に長く居座るとだんだん側近も何も言わなくなる。
石橋龍之介…あの小僧、言ってくれるじゃないか。
ステイ大統領はそう言い、一人ほくそえんだ。
いや疑ったりして悪かった！
ミスター石橋には日本政府を通じて多額の経済援助もして貰っている。
ミスター石橋の関係者なら言ってくれればＶＩＰ扱いで迎えたよ！
いえ、今回は個人的な旅行でしたので…
それより大統領、石橋の伝言を伝えに本日は参りました。
静乃は静かに、だが毅然とした態度で話を続ける。
ほう？伝言とは？
石橋家は内政干渉する気は全くありませんが、今回の爆破事件は
国民の不満がそれほどまでに高いことを示しています。
アウンサン・スーチー女史をはじめ、敬虔な仏教徒の国のミャンマーで
武力闘争をしようなんてよっぽどのことですわ。
どこの国にもイカレたヤツはいる。
今回もほんの一部の過激思想の輩だろう。
犯人も徐々に特定されて来た。
どうやら僧侶の中に君と同じ日本人と名乗る男が紛れていたらしいな。
その男が国外に逃亡しないように空港、港、国境の道路警備員に監視カメラの映像を渡したところだよ。
ミャンマー国軍を舐めるとどういうことになるか思い知らせてやる！
大統領。
大統領こそ石橋の情報網を舐めないで頂きたいですわ。
大統領が自国民にして来た仕打ちは全てお見通しですよ。
石橋の要望としては只一つ。
クーデターを起こした当初の志を忘れないで、自国民が何を望んでいるのか、真摯に耳を傾けて下さい。
反乱者を粛清すること自体は石橋も否定しませんが、オーバーキルは憎しみしか生みません。
神の逆鱗に触れる前に…
神の逆鱗に触れたら、地球上のどこにいても抹殺されてしまいますからね。
…「プーシキノの粛清」のようにかね？
それは脅しということか？
…どう捉えるかは大統領次第ですわ。
それと、これは私からの個人的なお願いですが、
大統領が疑われている容疑者は、本日私たちが日本に連行します。
なので手配は解除願います。
「ダメだ！」…と言ったら？
うふふ、聡明であらせられる大統領が「ダメ」と言うわけありませんわ。
静乃はいつもの屈託の無い笑顔でそう答えた。
…わかった、爆破犯は海外へ逃亡、次に見つけ次第逮捕で良いかね？
お気遣い痛み入ります。
静乃は深々と頭を下げた。
では私はこれで。
静乃はそう言い席を立った。
静乃が応接室から出て行くと、すかさず執務官がステイ大統領に駆け寄る。
行かせてしまってよろしいのですか？
ああ、構わん。
厄難はとっとと出て行って貰わんとな。
「プーシキノの粛清」の実行部隊は石橋直下の女兵士だったと聞く。
たった３０人足らずで１０００人ものマフィアを皆殺しにしたそうだ。
おそらくヤツはその中の一人だ。
なぜ分かるのです？
貴様は感じなかったかも知れんが、あの女が発する殺気は尋常なものじゃなかったぞ。
ヘタに取り押さえようとしたら私は勿論、お前を含めてこの場にいた全員の命はなかっただろう。
殺気を察知出来ない者は、権力の座に長くはいれないものだ。
…勉強になります。
執務官はそう言うと、改めて静乃が出て行ったドアを見返した。
「初心に返れ」…か。
権力の座に長く居座るとだんだん側近も何も言わなくなる。
石橋龍之介…あの小僧、言ってくれるじゃないか。
ステイ大統領はそう言い、一人ほくそえんだ。
