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静乃と新治第七部 ~アジト特定

それから2週間。

静乃たちに召集がかかった。

前回と同じ面子が石橋家の会議室に集まる。

怪しい場所が特定されました。

咲は事務的にそう言った。

スクリーンにはシリア全土の地図が表示されている。

場所はここ。

咲がそう言うと同時にシリア南部がクローズアップされる。

リーフ・ディマシュク東南の砂漠地帯です。

北部ではなく南部か。

首都ダマスカスからは近いわね。


静乃がつぶやく。

そう、つまり政府側の支配地域。

ひょっとしたらアサド大統領もこの一味に絡んでいるか…

もしくはクローンか…


咲は慎重に話す。

そうだな、その可能性も大いにあるな。

アサド大統領の性格がイギリス留学当時から大きく変わったのは有名な話だからな。

俺も何度か彼に会ったことがあるが、シリア内線からしばらくして会った時は、まるで別人のように疑心暗鬼に陥っていた。


龍之介が咲の話を受ける。

何故ここを特定したかと言うと運び込まれる物質が化学系だったと言うことと、
運び込まれる物質の流通ルートがシリア軍が利用しているものと明らかに違うことです。


龍之介の話に頷きながらも咲は話を進める。

シリアが極秘裏に開発している新型化学兵器の可能性もあるけど、確かめに行く価値はあると思っています。

咲はそう締めくくった。

武器商人が国家の施設かも知れない施設をいきなり攻撃というわけにはいかん。

内戦以来のアサド大統領の態度からして、公式訪問も難しい。


今回のミッションはこの施設に極秘で侵入し「ハーケン」という男…もしくは組織が関わっているかどうかを確認するのが目的だ。

施設の破壊及び、そこにいる人間に危害を加えることは厳禁。

見つかったら即時撤収。

もしくは投降だ。


龍之介は淡々と言ったが、友好的でない紛争国で投降するということは、死か死ぬよりひどい扱いを受ける可能性が高い。

龍之介としても苦渋の決断だった。

さてその前提で誰が行くかと言うと…

咲は一瞬黙る。

メイド部隊からは侵入班として静乃さん、ナターシャ、サーシャ、それに美鈴ちゃん。

意を決したように咲は言った。

美鈴は接近戦部隊のB班所属で実践経験は少ないものの、強さでは隊長の彩芽をも凌ぐという評判だ。

A班…つまり静乃の部隊にはナターシャとサーシャの他に爆発物のスペシャリストである芽依がいるが
隠密行動に爆発物はいらないとの判断から外されたようだ。

後方支援はC班。

紀香さんのチームは長距離班とともに私たちの護衛に回って貰います。


え~!私たちも突入するんじゃないの?

紀香が不平を言う。

接近戦部隊C班の別名は「サイボーグ部隊」。

均整の取れた体つきをしているが、それは様々な整形手術や薬物投与をした結果で、
全員が元男のシーメールである。

隊長の「紀香」も本名ではなく、藤原紀香のような容姿をしているので皆からそう呼ばれている。

筋力もあるし、身体能力は接近戦部隊随一なのだが、
その凶暴性から海外で作戦行動がある時は、留守を任されることが多かった。

「突入」じゃなくて「侵入」です。

咲が呆れたように言う。

紀香さんが侵入したら作戦が台無しになってしまいますので。

でもトラックが攻撃される事態になったら、大いに暴れてくださいね。


咲はニッコリ笑ってそう言った。

ちぇっ!久々に暴れられると思ったらやっぱりお留守番かぁ。

まあでもここが敵の拠点なら暴れられるわね。


紀香は気を取り直してそう言うとニヤリと笑った。

長距離班からは美里さん。

美里はライフルやロケットランチャー等での攻撃を得意とする、長距離部隊B班の隊長である。

それと…

麻里さんは今回の作戦から外れるようにとの龍之介様の指示です。


えっ!

麻里が驚く。

麻里は遠距離部隊のエース兼A班隊長としてもちろん参加するつもりであった。

当たり前だろう。

龍之介が半端呆れて言う。

そうですが…

身重が一緒では却って皆が気を使う。

身を引くのも上の役目だ。


龍之介は静かに諭した。

…わかりました。

麻里はそう言うとそっと部屋から出て行った。

寂しげなその後姿を見送る静乃たち。

普段はおチャラけているが、麻里の人一倍仲間を思う気持ちはみんなが知っていた。

諜報班は私、運転手は新治さんと斎藤さん、それと現地案内役は菊地です。

気を取り直して咲が言う。次に作戦を説明します。

まずヨルダンに向かい、そこから陸路で標的を目指します。

目的地10キロ手前までは情報収集機器を積んだ偽装トラックで行きますが、
そこから先は接近戦部隊だけが闇に紛れて近づきます。

既に現地の菊地から外部セキュリティの情報が回って来ているので目を通しておいてください。

一回の侵入で確証を得られなくても良いです。

とにかく確証を得るまで侵入に気づかれないこと。

装備も万が一、不測の事態に陥った時のために、全て一般的に手に入る物にしてください。


咲は淡々と説明する。

話は以上です。

出立は明日。

各自準備に取りかかってください。


了解。

了解。

では解散。

皆、咲の号令で席を立った。



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